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6・伝えたい想い Page5

last update Dernière mise à jour: 2025-03-11 12:49:15

 実家を出たその足で電車を乗り継ぎ、私は新宿にある美加の職場へ。

 ――ジューンブライドにはまだ早いけど、結婚式場のチャペルには式を挙(あ)げている幸せそうなカップルと、彼らを祝福する大勢の参列者がいた。

 今日がいいお天気でよかった。人生の新たなスタートを切った二人の未来が明るいものになるようにと願いつつ、私は美加が働いている事務棟(とう)に入っていく。

「――あ、奈美! 今日は来てくれてありがと! 待ってたよ~!」

「美加ー! 久しぶり~~っ!」

 エントランスで待ってくれていた美加と私は、ここが彼女の職場だということも忘れて会った瞬間に抱き合った。時間が一気に高校時代に戻った気がする。

「奈美、元気そうだね。本読んでるよ、あたし!」

「ありがと、美加! 仕事中にゴメンね!」

 結婚式場のユニフォームである紺色のスーツを着ている彼女はすごく誇らしげだ。首元のオレンジ色のスカーフが眩しい。

「いいってことよ☆ 上司にはちゃんと言ってあるから。『今日、作家の巻田ナミ先生が取材に来るんです』って」

「美加ぁ~……」

 確かにその通りなんだけど、お願いだからハードル上げるのはやめてほしい。

「ウチのチーフがね、巻田ナミの大ファンでさ。奈美が来るって聞いた途端にテンション上がりまくっちゃって」

「へえ、こんなところにも私のファンがね」

 親友の上司も私の本を読んでくれているなんて。世間(せけん)って狭いというか何というか。

「っていうかあたし、奈美が一人で来るなんて思ってなかったよー。てっきりついでに彼氏でも紹介してくれるもんだとばっかり」

「いないよ、彼氏なんて」

 私はキッパリ否定した。というか、どこの世界に恋人を取材に連れてくる作家がいるんだろうか。……いや、探せばいるかもしれないけど。

「だってさあ、アンタのその格好がなんか気合入りまくってるから」

「あー、そういうことか」

「……は?」

 さっき実家で、「予定がある」って私が言った時に両親が「デートか?」ってやたら騒いでいた理由がやっと分かった。

 私が今日着ているのは七分袖のフワッとしたカットソーに白のチノパン、そしてスニーカーではなく若草色のフラットパンプス。実家に帰るだけならまだしも、「取材だから」とやたら気合を入れてめかし込んできたら、誤解を生んでしまったらしい。

「ううん、こっちの話。――あ、そうそう
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